副社長のような人物はいますか?という質問
「副社長のような人物はいますか?または、そのような社員の方はいますか?」
M&Aのトップ面談が始まったころ、ほぼすべての買い手候補企業から同じような質問がありました。
この質問は言い換えれば、
「経営者のあなたが抜けたときに、会社はまわっていきますか?」
「どこまで会社の仕組みは自動化されてますか?」
「経営を責任持って任せられる人がいますか?(いないとしたら買収後の引き継ぎや統合のコストはどれくらいかかる?)」
という確認です。
買い手企業の関心ごとは、買収後の経営負担の小ささ
買収後の経営がスムーズに移行できるかどうか、買収後の経営にかかる負担がどの程度かは、買い手企業にとって、経営状況や資産状況、買収金額に次ぐ、重大な関心ごとです。
よほど買収金額が低くお買い得な案件であれば別ですが、売り手企業が高値を希望するならば、当然、リスクやコストについても細心の注意が払われます。
そして、買い手企業候補に買収意思を示す意向表明まで残ってもらうためには、売り手企業側は、この問いに満足のいく答えを示す必要があります。
「経営者が抜けても大丈夫」と判断してもらえることが重要
私自身、株式譲渡により経営からの退陣を希望していましたので、最初の質問には「いいえ、いません」と答えることになります。
もちろん、私の代わりに残って経営をしてくれる副社長がいればそれで解決だったかもしれませんが、副社長が「私も辞めます!」となったらM&Aの計画が破綻してしまいます。
いない前提でも「買収しても経営していける!」と思ってもらえるよう、1年をかけて準備を進めました。
- 経営者が私でなくてもまわる会社の仕組みづくり
- 各部署単位で、問題提起と経営判断を求めるエスカレーションができる体制
- 次の経営者に引き継ぐ業務オペレーションマニュアルや、取引先等の資料
- 経営者でなくてもよい業務タスクの社員への割り振り(私の業務時間を、週4時間以下になるように
- 経営者の業務タスクリストとその説明
買収後の経営がイメージできる会社は高値になりやすい
自己評価では、会社はとても仕組み化されていました。
それで営業利益が年に◯億円弱発生するビジネスモデルでしたので、M&A案件としての質もよかったと思います。
それでも上記の「経営者の業務タスクリスト」を示したとき、候補のうち1社の社長さんが「経営の負担が多すぎる!」と名乗りから降りてしまいました(M&A仲介会社の担当さんがお相手の期待値を上げすぎた感は否めませんが)。
シナジー効果の高い会社でも、他社の経営を引き継ぐときの負担は、それくらい買収の意思決定に大きく影響を与えるのだということが分かります。
逆に言えば、買収後の経営をやっていける!とイメージしてもらうことができれば、多くの会社が買収の意向表明を出してくれて、より高値になりやすくなります。