ITなどの仕入れや在庫のない業種にはあまり関係がない話ではありますが、流通業や製造業など在庫を扱う会社にとって、会社売却を目指すなら早い段階で達成しておくべき取り組みについて書きます。
それが、棚卸しの習慣化と、棚卸資産台帳の作成です。
棚卸しや棚卸資産台帳を作成する意義やメリット
棚卸しデータは、決算や試算表の根拠
棚卸しデータは、決算や試算表の根拠となる重要なデータです。
棚卸しデータが正確でないと、事業規模や営業利益などを正確に計ることができません。
棚卸しデータや試算表は、M&Aにおける表明保証(データが正確であることを保証すること)の対象となります。棚卸しデータが正確であることで、より高い株価を目指すことができますし、買い手企業とのトラブルを減らすことができます。
デッドストック(不良在庫)がわかる 浮かび上がる
棚卸しのメリットとして、デッドストックがどれくらいあるかもわかりますので、無駄のない販売につなげる対策ができたり、減価して処分することで節税効果を得たり、損益計算書に効果的に反映させることができます。
こうした処理はいつかどこかでやらなければならなくなりますので、普段からデッドストックを増やさない経験や理解に繋がっていきます。
事業効率が見えるようになり、よくできる
経営分析の指標の中に「棚卸資産回転率」と「棚卸回転期間」があります。それぞれの計算式は次の通りです。
棚卸資産回転率 = 売上額÷((前期末棚卸資産+当期末棚卸資産)÷2)
棚卸回転期間 = 365÷棚卸資産回転率
これらの指標がわかることで、事業効率がどの程度よいのか、定量的に比較し把握することができます。
また、棚卸資産回転率のよさを会社の強みとしてアピールできるようになります。
資金繰りや利益が読みやすい
「棚卸資産回転率」や「棚卸回転期間」がわかると、年間に仕入れ予算が、いつごろ、どの程度必要か、資金繰りを予想しやすくなります。
およそ利益率も一定だとすると、ほかにも、どれくらいの利益が出続けるのかもわかるようになり、製品に至るまでの直接原価もわかります。
利益や直接原価は、買い手企業からも比較的、質問されやすい項目です。
会社の成長がわかる
「棚卸資産回転率」や「棚卸回転期間」は、定量化された数値ですので、期間別の比較検討をすることができ、事業効率だけでなく「会社が成長しているかどうか」を客観的に示すことができます。
美しい「棚卸資産回転率」や「棚卸回転期間」は経営者のセンスを示す、芸術作品のようでもあります。
棚卸し頻度が高いと、現場の棚卸の負担が減るオペレーションになる
棚卸し頻度が高いと、棚卸し作業はたいへんなので、現場オペレーションも普段から棚卸しの負担が減るように進化していきます。
具体的には「あるべき在庫が見つからない」というような雑多な保管から、見ただけで数えやすいように在庫が整理整頓されるなどです。
従業員から「管理用に棚を購入してほしい」など積極的な提案が出てくるようになります。
もちろん会社や業種にもよると思いますが、棚卸しは週1回以上が望ましいと思います。
経営者がズボラな性格だとなかなかこの棚卸し頻度は上げにくいですね。
棚卸しを習慣化しておくとM&Aに自然に移行できる
もし棚卸し頻度が低い会社が、棚卸し頻度を上げようとすると、社員の抵抗や不満が出るかもしれません。
M&Aの直前に棚卸し頻度を上げると「社長が会社のオペレーションを、急激に変えた」感が出てしまいますし、「なにかあるのか?」と勘ぐられてしまうかもしれませんので、棚卸しは余裕をもった習慣化が大切です。
次の仕入れをいつすればよいか、どれくらいすればよいか読みやすい
当然ですが、棚卸しの頻度が高ければ、仕入れもぴったりのタイミングを図ることができますので、資金繰りもよくなります。
あるいは仕入元の在庫が少ないなどの理由で入荷が遅れるときなど、再入荷までに追加で発注しなければならない個数も読みやすくなります。
在庫管理コストが下がる
在庫が多いと、保管場所もそれだけ必要になりますし、破損や紛失リスクも上がりますので、保険料も上がるかもしれませんし、管理コストも高くなってしまいます。
適切な在庫量を維持することで、管理コストを最適にすることができ、固定費が減ればさまざまなメリットにつながっていきます。
正確な棚卸しはM&A的にもメリットがたくさん
これら直接的に会社経営に役立つ棚卸しと棚卸資産台帳の作成ですが、M&Aの面でもメリットがあります。
- 在庫管理のしっかりした会社
- オペレーションの社員教育が徹底されている会社
- お金の無駄がなさそうな会社
- 経営効率がよいことが伝わる
などです。
棚卸しが苦手という経営者さんや従業員の話はよく耳にします。
でもM&Aで会社売却を目指すならば「やってないとダメ」のレベルなので、しっかりと取り組んでほしいと思います。