M&Aの前に法人・取締役・従業員・株主の間で利益相反取引がないか確認する

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株式会社は、4つの当事者が運営する1つのチーム

株式会社は、次の4つの当事者が集まった1つのチームのようなものですが、日々、一丸となって利益に向かっているので、複数の当事者がいることをつい忘れがちです。

  • 法人
  • 取締役
  • 従業員
  • 株主

しかも、法人以外のそれぞれが同一人物ということもよくあるので、それによっても利害関係は見えにくかったりします。

会社売却は、法人、株主、取締役それぞれの利害関係を明確にする作業

M&Aの会社売却は、株主が代わり、それにより会社の経営権が変わり、必要に応じて経営者である取締役が交代するというプロセスになります。

これは言い換えれば、M&Aの会社売却は法人、株主、取締役それぞれの立場や利害関係を今一度、明確にする作業とも言うことができます。

利益相反取引とは何か

それぞれの当事者が同一人物のときは問題にならなかった法人の取引が、
それぞれの関係性を明確にする作業の中で、じつは、法人にとっての不利益を与える取引だった、と判断されることがあります。

会社に不利益を与えている法人の取引を「利益相反取引」と呼びます。

M&Aの会社売却に向けて準備する際に、この利益相反取引についても整理しておいたほうがよいですね、というお話です。

利益相反取引の例

利益相反取引には、たとえば次のようなものがあります。

利益相反取引の例 直接取引

  • 法人と取締役、または法人と取締役の経営する別法人との間の売買契約
  • 法人と取締役、または法人と取締役の経営する別法人との間の賃貸契約
  • 法人から取締役、または法人から取締役の経営する別法人への贈与
  • 取締役から法人、または取締役の経営する別法人から法人への金銭貸付(利息が大きいなど
  • 法人から取締役、または法人から取締役の経営する別法人に対する金銭貸付、および債務免除

利益相反取引の例 間接取引

  • 法人が取締役個人、または取締役の経営する別法人の債務を保証する行為
  • 法人が取締役個人、または取締役の経営する別法人の債務を担保するため、法人の不動産の抵当権を設定する行為
  • 法人が取締役個人、または、取締役の経営する別法人の債務を引き受ける行為

これらの行為には、法人の利益を損なう契約内容が含まれている可能性があります。
気になる方は、会社法第356条について調べてみるとよいでしょう。

利益相反取引があった場合の処理方法

利益相反取引があった場合の処理は次の2つです。

1)明らかに法人の利益を損なっている場合は、利益相反取引をM&Aの開始までに解消しておく

2)法人にとって必要な取引だけど、利益相反取引に該当する場合は、

取締役会「非」設置会社の場合、
 ・株主総会でその取引の可否を議題に挙げ、株主の承認を得た記録を残しておく
取締役会設置会社の場合、
 ・取締役会でその取引の可否を議題に挙げ、取締役会の承認を得た記録を残しておく
加えて、
 ・該当の株主総会議事録と共に、デューデリジェンス(DD)で事実を共有し、買い手企業の判断を仰ぐ

利益相反取引のもう一つ困った点

利益相反取引は、税務署が大好物です。

利益相反取引は、税務処理が真の取引ではなく、利益供与や寄付ではないかという論法で経費を否認してくる可能性があり、本当の意味で適切に処理していないと、申告漏れとして追徴課税を迫ってくる可能性があります。

税務署は、税務調査で過去5年まで遡って指摘をすることができますので、会社売却後5年間は元株主がその責任を持つことになります。

利益相反取引でどれだけかの利益があるかもしれませんが、適切に手続きしてM&Aの株式譲渡を安全に済ませられるほうが利益はずっと大きいと思います。

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