M&A仲介会社さんは、数多くの仲介を経験していて、利害の対立やトラブルになりやすいポイントを把握しているノウハウに加えて、各種契約書の事例や契約文言を持っていることが特に強みの1つです。
しかしながら、豊富にノウハウが蓄積されている分、気をつけないといけないのが、最終の株式譲渡契約や、経営委任契約、業務委託契約などがテンプレ的に利用される点だと思います。
契約している法律事務所に依頼して、契約書を新規に作成してくれていると思いますが、私の経験でも「この契約内容は、きっと以前の契約条項を踏襲しているんだろうな」と感じる部分もありました。
私の気付いた範囲ですが、この辺り気をつけてというポイントをまとめました。
「これらに限られない。」に注意
「当該契約すべてを履践する」、「当該承諾すべてを履践する」など一式全部を意味した文言が入っていることがあります。
契約書の文言をシンプルに、楽にまとめたいのだと思いますが、これは売り手企業としては義務の範囲が広がってしまうので注意したいです。
すべて、となると確認することも大変ですし、対象と認識していなかった項目が後から発覚して有責となることがありますので、もしこのような条項があったら修正の上で、「具体的にどの契約書?」など名指してもらうのがよいと思います。
「情報アクセス」に注意
株式譲渡契約の契約日と、譲渡実行日(株式と買収のお金を交換する日)が離れていることがあります。
その場合に、譲渡実行日までに、会社の情報に自由にアクセスさせる文言が入っていることがあるのですが、いや、譲渡実行してないのに、取締役の変更もしてないのに、社内の情報に自由にアクセスを認めちゃダメです。
情報アクセス 売主は、本契約締結日以降譲渡日までの間、対象会社をして、買主関係者に対し、対象会社の業務を妨げない態様にて、対象会社の帳簿、契約書、議事録その他の書類・情報に対する完全なアクセス権を与え、買主関係者が合理的に請求する対象会社の財産、事業等に関する書類・情報の全てを提供させる。
「クロージング条件」に注意
クロージング条件とは、株式譲渡を実行する場合の売り手企業と買い手企業のそれぞれが譲れない絶対条件のことです。このクロージング条件が1つでも達成されていない場合、最終的な契約は延期されるか、場合によっては契約解除もあるので非常に重要な条件です。
よく言われるのは、買い手企業側のクロージング条件の中に「買い手企業が買収資金を確保できなかった場合に解除できる」的な項目があるので、そういった条件はあまり応じたくないですよね。
銀行の融資証明(銀行の審査が完了して融資が確実となった証明)が発行された後に、最終の株式譲渡契約を結ぶ、などの協議も可能だと思います。
「競業の禁止」に注意
M&A株式譲渡日記は、会社売却後のFI(経済的自立)サイコー、海外や田舎の移住サイコーと満喫している人たちのブログですが、会社売却後に再起業しようとしている場合は、契約書には「競業する事業」とだけしか書かれていないのですり合わせしておいたほうがよいかもしれません。
競業の禁止 自ら又は第三者をして、対象会社が行う事業と競合する事業を行うこと
「損害の賠償又は補償」に注意
損害賠償の発生条件は個別案件ごとに異なりますが、損害賠償の上限額については、「譲渡額を上限とする」というような表現になっていることが多いと思います。
これは、株式譲渡価格までの損害賠償が発生する可能性があるし、それに同意した、という意味になります。
しかしこの損害賠償の上限額は、あまり歓迎されませんけれど、じつはディスカウント交渉が可能です。
売主の負担する補償等の合計額の上限は、◯条に定める譲渡価額とし、当該上限を超える額については責任を負わない。
また、場合によっては、売り手企業が一方的に補償する内容になっている項目もあるかもしれませんので注意したいポイントです。
損害の賠償又は補償の「連帯保証」に注意
売り手企業の株主が複数いる場合、株主同士が損害賠償について連帯保証する内容になっていることがありますが、これも注意。
これは売り手企業側の都合でしかありませんが「会社売却から1年経って、損害賠償が発生しました、他の元株主は株式売却したお金をすでに使ってしまってもうありません」となると残っている元株主が補償しなければならなくなるので、株主が複数いる場合はそれぞれの責任とする内容にしてもらうほうがよいでしょう。
売主らは、いずれかの売主が本条第◯項に基づいて負担することとなった損害賠償・補償債務を連帯して保証する。
「株式譲渡金の振込先」に注意
売り手企業の株主が複数いる場合、誰か1人の株主に一括して振り込む内容になっていることがあるようです。
これも、トラブルになりかねないので、きちんとそれぞれの株主の口座に振込してもらったほうがよいでしょう。
「完全合意」に注意
完全合意とは、複数の契約書や口約束などが存在する場合「契約書同士の矛盾があったとしてもこの契約が最優先の契約書ですよ」と示すためのものなのですが、M&A業界では複数の契約書それぞれに完全合意が記されていることがあります。
これは後々困ることになるので、どれが最上位の契約書か確認した内容を、書面で残しておいたほうがよいと思います。
完全合意 本契約は、本件株式譲渡その他本契約における対象事項に関する売主及び買主の最終的かつ完全な合意を構成するものであり、かかる対象事項に関する本契約締結日までの両当事者間の一切の契約、合意、約定その他の約束(書面によると口頭によるとを問わない。)は、本契約に別段の定めある場合を除き、本契約締結をもって失効する。
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あまりうるさいことを言うと煙たがられる可能性はありますが、M&Aプロセスもいよいよ大詰めなので最後まで条件交渉に付き合ってもらえると思います。