「社内への全体発表までは、売却の件はくれぐれも内密にお願いします」
これは僕が株式譲渡することを、事前に役員に共有した時のセリフです。
M&Aプロセスを進めるにあたり、株式譲渡について役員や従業員にいつ、どのように伝えるか、人間関係の調整が必要です。
経営者が株式を売却して会社を退くという話なので、タスクを単純にこなすようには進められません。繊細で丁寧な対応をしていきました。
誰にどんな利害関係が発生するか把握する
株を持っている株主同士であれば利益を共有できる関係性になりえますが、
- 創業メンバーだけど株を持っていない役員や従業員
- 会社が大変だった時に一丸となって頑張ってくれたが株を持っていない役員や従業員
- 会社の成長に大きく貢献してくれたが株を持っていない役員や従業員
などなど、こういった人たちとっては、経営者が株式を売却するという話に悪感情を持つ可能性があります。
さらに、その人たちは「買い手企業から新しい役員や従業員が入ってきたら、自分たちのポジションや給料に影響が出たり、不利益になる折衝があるかもしれない」というネガティブシミュレーションをはじめるかもしれません。
こういった人たちに対して人間関係含めて社内調整をしていくために、まずは、誰にどんな利害関係が発生するか把握しておきました。
事前に伝えておくべき人と伝えないでもよい人がいる
前述の利害関係が発生する人のなかでも事前に伝えておくべき人と、全体発表の時に初めて知ってもらうでも問題ない人がいると思います。
自分が100%株主だとしても取締役会が在る会社では取締役に承認してもらう必要があるため、取締役陣には事前に丁寧な根回しや情報の頭出しをする必要があります。
他にも会社のキーマンなど先に伝えておくべき人がいるでしょう。
そういった対象の人たちには、それぞれに飲みや食事の場をもうけて、丁寧に共有し、全体発表まではくれぐれも内密にしてもらうように強くお願いをしました。
事前に伝える場合、伝えていく人の順番が大切
さらに心情的な話になりますが、事前に伝える場合、伝えていく人の順番を間違えると、「なぜ私よりあいつが先に知っているんだ」、「自分に最初に話して筋をとおしてもらいたかった」などと、人間関係上のプライドや矜持が発生することがあります。
その結果、相手がスネて協力してくれなくなったり、承認を嫌がったり、最悪の場合は会社を退職するなんてこともあるかもしれません。
キーマンの退職が株式譲渡契約の前に発生したら、M&A自体が取り消しになりかねません。
そんなリスクをヘッジするために、共有相手の見極めや伝えていく順番のシミュレーションをしておくことが大切でした。
サクサク進めず、気を使って丁寧にすすめる
以上、株式譲渡について、役員や従業員にどのタイミングで伝えるか、や伝え方など含めて人間関係の調整が必要というお話でした。思い出しても非常に繊細でした。
利害関係、人間関係、仲間意識、期待感などなど様々な心情や感情が交錯するためサクサク進めずに気を使って丁寧に進めることが大切ですね。